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「選挙の投票率を高める方法を考案せよ」-GDやケース面接の考え方の例-

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就活の選考の序盤で課されるグループディスカッション。初めてだとどうしても取り組み方がわからず、戸惑ってしまいますが、これも大学受験のように考えるべき解法やフレームワークというものがあります。それを習得してしまえば比較的用意に通過することができる選考です。すなわち、準備の量によってパフォーマンスが増加します。

実戦の経験を何回も積むことも大事ですが、そこできちんとした解き方を知って理解しておかないと、その経験を次ぎにいかすことはできません。そういった、あまり触れられることのないグループディスカッションにおける考え方というのをここでは扱います。

これは基本的にはケース面接でも使える考え方で、どうやって課題に対してロジカルに答えを出していくかという手法を学ぶことと同義です。コンサル志望者でケースの対策している人にとっては正直GDとかちょろいですからね。

今回は東京都知事選にちなんで「選挙の投票率を高める方法を考案せよ」というお題を考えてみます。
まずは自分でどうやって進めたら良いか考えてみてください。



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では、考え方の一例です。
このような「解決策」を考えるお題の場合、以下の5ステップに分けて考えると効率よく進めることができます。

  1. 前提確認
  2. 構造分解
  3. ボトルネックの特定
  4. 解決策の策定
  5. 解決策の評価

1.前提確認

まず、最初に議論の前提をチームの間でそろえなければなりません。そろえないと議論ができないのです。たとえば、「原発をどこに設置すべきか」ということを考えるときに、東京の人だったら、「日本の中心である東京にそんなにリスクの高いものはおけない」と福島におくべきと主張するかもしれないし、福島の人だったら「原発で発電されたエネルギーのほとんどを利用しているのは東京圏の人々なのだから、その恩恵を受けている人たちがリスクもとるべき」というかもしれません。このようにどちらの前提で考えるかによって、望ましい解決策は変わりうるので、そこを合わせなければならないのです。

確認すべき前提としては、
1.誰の視点からか
2.言葉の定義
3.ターゲット
4.議論の目指すべき方向はどこか
を定めておけばグループディスカッションとしては十分でしょう。

この問題においては、
1.誰の視点からか
ここでは、投票率低迷を憂慮した政府の視点とします。
2.定義
ここでは「選挙」という言葉を「衆議院議員選挙」と具体化して定義します(定義自体は決めの問題なので、えいやで決めて大丈夫です)。投票率は、選挙権を持った日本国民のうち、白票含む有効票を投票した人の割合とします。
3.ターゲット
ここでは2,30代の若者をターゲットします。すなわち、高齢者ではなく若い人たちの投票率を上げるためにどうしたら良いかということを考えます。なぜなら、下記の図にもあるように、投票率が低いのは若い世代であり、ここの投票率を上げることが一番効果的だと考えられるからです。

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年代別投票率の推移 | 公益財団法人 明るい選挙推進協会より

対象とするターゲットによって効果的な施策も変わってくるので、ここはこのように決めてしまいます。

4.議論の目指すべき方向はどこか
目標増加率や何年以内に、などの制限を加えることも可能ですが、ここでは議論の簡略化のために、単に投票率が増加すれば良いと考えます。

2.構造分解

さて、ここで問題を構造化して、「その変数を動かすことによってもっとも目的の寄与度が高い変数(=ボトルネック)」を探すための準備をします。ここでは、若い世代の人が投票行動をとるプロセスを分解したチャートを考えました。

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考え方としてはまず、人間が投票に行って投票するまでにはどういうプロセスを経るのだろう、と考えてみます。そもそも、「投票したい」と思わなければ行かないよね、とか、候補者がどんな人柄でどんな政策掲げているかわかんないと投票できないよね、とか。そういって出てきた考えを抽象的なものと具体的なもので、レベル感(具体的な度合い)が同じものでグループ化します。そうしてみて、順番に並べてみたり、どの項目がどこの中に属するのか、ということを考えるのです。

これの見方としては、例えば「投票に行こうと思う」にはどのような要素が大切だろう、と考えたときに、投票行動自体の意義がわかったり、投票した成果がわかるのだったら、投票しようと思うよね、だからこの2つは重要な要素だよね、というように挙げています。

このチャートの背景にある考え方は、AIDMAという古典的なマーケティングのフレームワークです。
http://smmlab.aainc.co.jp/?p=18303
簡略化して説明すると、消費者が何か商品を買うときには、商品をまず「知って」、「興味をもって」から、実際に「買う」という行動をとるよね、という考え方で、今回はこの考え方をアレンジして使っています。

このような分解の仕方がなぜできるのかとか、こんなの無理だと思うかもしれませんが、これにもチャートの作り方・考え方があります。今回そこまで説明するとかなり長くなってしまうので紹介はしませんが、以下の本が参考になるので、このような考え方ができるようになりたい、という人は手に取ってみてください。このブログでもまた、解説をしてみたいと思います。

3.ボトルネックの特定

さて、構造を1つのチャートに落とし込めたところで、どこが投票率向上という目的に対して寄与するのかを考えます。
まず、「投票に行こうと思う」「投票に必要な情報を調べる」「投票に必要な情報を知る」「投票したいと思う」「実際に投票する」の5つのポイントを考えたときに、どこが一番改善すべき、伸び代が大きいポイントでしょうか。

まず、そもそも若い世代において「投票に行こうと思」っている、すべきことや価値があるべきことだと思っているが少ないように思われます(これは実感ベースです)。投票の成果も投票行動自体にも意義を感じていないように思われます。これが1つ目のポイントとなるでしょう。
また、実際に投票しようと思っていろいろ調べてみても、情報は出てくるけれどなんか良くわからない、というように「わかりやすい」情報が若いひとたちが多用するインターネット(そしてその多くはモバイル環境)まだまだ不足していると言えます。
そして、期日前投票など、投票方法自体が簡便で融通がきくものであっても、まだまだその存在自体が知られていないのではないでしょうか。

このように、解決すべきボトルネックは、「投票行動自体やその成果の意義を感じること」「投票に必要なわかりやすい情報を知ること」「投票の簡便さの認知」ということになります。

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※もっと厳密にpotentialやvolumeなど評価軸を用いて優先順位をつけるこもできますが、今回は割愛します

4.解決策の策定

さて、対処すべきボトルネックが決まったところで、これを解消する解決策を考えます。

  • 「投票行動自体やその成果の意義を感じること」

これには長期的な視点と短期的な視点があって、長期的な視点ではそもそもこういう社会問題に興味を持つような人たちを育成すること、短期的にはイベント的な面白さを出して投票にいくことがinterestingなことだと思っていることの2つです。前者に対しては学校高教育において投票行動を促すような教育をすること、後者では若者に人気の芸能人やアーティストを使って企業が自社のプロモーションをしつつ投票行動を促せるようにインセンティブとして税金割引と法整備を行うことが考えられます。

  • 「投票に必要なわかりやすい情報を知ること」

これはひとえにそのような政治メディアを作ることです。しかし、政府が組織的に作るのではなく、そのようなメディアを作るのに補助金を出すことが良いでしょう。現政権の政治的影響を出させないために、独立した審査委員会の設置も併せます。

  • 「投票の簡便さの認知」

これは選挙前や選挙期間中のTVでのプロモーションが有効ですね。

5.解決策の評価

さて、いくつかの施策を挙げてみましたが、この施策に優先順位をつけてみます。優先順位をつける軸は、ここでは2つ。「効果(実行したときの効果がどれくらい大きいか)」ということと「実行可能性(どれだけラクに実行できるか)」です。

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学校教育はそれなりに効果はありそうですが、効果の発現にかなり時間がかかりそうなので実行可能性を△としました。また、新たな養育制度を導入するのもそんなに容易ではないでしょう。

投票行動促進のための税割引と法整備は、「選挙に行くことがクールだ」というイメージを形成することができる一方で、莫大な資金が必要ですし、何より特定の企業が政治に関与することになるのはなかなか法律的にも倫理的にもきわどいところになりそうです。

政治メディアの補助金というのは、そもそもそれだけ大きなメディアを位置から作ることの難易度が高く、できたとしてもどうしても現政府になびいてしまう偏ったメディアになる可能性があります。なので効果はいまいちなのでは。

投票方法のTVプロモーションは即効性が高く、効果も非常に高いと思われますが、法律的にはグレーな部分です。なのでその法律を修正することができればなかなかインパクトがあるのではないでしょうか。

このような考察のもと、優先順位をつけてみると、
1.投票方法のTVプロモーション
2.投票行動促進のための税割引と法整備
3.政治メディア設立の補助金
4.学校教育

あくまでこの◎◯△は便宜的なもので、論理的に筋の通った説明ができれば基本的には何でも良いです。出した答えより、建設的なプロセスを踏めたかどうかの方が重要です。

僕は政治の専門家ではないので実際は問題の捉え方が間違っていたり、効果的な解決策を提示できていないかもしれません。ですが、このエントリーで伝えたかったのでは、問題解決の手法としてこういうものがあるよ、ということで、なにも選挙率を高める「正しい」手法について主張したかったわけではないので、その辺りはあしからず。



さて、最後に蛇足ですが、私見を。
ここでは政府が解決策の実行主体と前提をおきましたが、これって本当は現実的な設定なのでしょうか?現在の投票率を見る限り高齢者ばかりが投票していて、若い人たちのそれは低いままです。最近の傾向はずっとこんな感じなので、今の政治家というのは高齢者の利益を反映した、彼らの意見を代弁している人たちと言えます。つまり、今の政治家は、支持者である高齢者の人たちがいやがるような施策は絶対に行わないのです。票が離れていくので。

今回扱ったような若者の投票率を上げる施策というのは、全体としての高齢者の割合を下げることになりますから、この施策が成功して若者の大多数が投票に行くようになると、高齢者の意見が反映される度合いが低まります。確実に。これは高齢者の利益に反するわけですから、現実的には、政治家の集合体である政府はこのような施策を行う可能性がきわめて低いのです(行うとしても、実質的な効果が低い、パフォーマンス的な施策)。

しかし、このような傾向が続くのは本当に望ましいのでしょうか。長期的に見たときには、必ずしもそうは言えないでしょう。従来の高齢者優遇の政策というのは全て短期的な利益を最大化するようなものに動いています。そりゃ、残り余生に限りがあるんだから、「後は知らないっ」ということもできるでしょう。でもそれは、長期的な視点で考えて、例えば僕ら若者世代が高齢者になったときに、本当にハッピーになるような結果をもたらしてくれるのでしょうか。
今、日本の借金はGDP比で世界の先進国の中でダントツの額をたたき出しています。財政負担が非常に重く、それでもまだまだ本格的な緊縮政策を行うことはせず、「ツケ」をどんどん先送りにしています。そうなれば、時間が進むにつれて財政が圧迫されていくのは目に見えています。
「老後の所得保障(年金)」、「老人医療や介護」ばかりが重視され、少子化対策は軽視されてしまう。そうなれば悪循環を繰り返すだけではないでしょうか(参考)。

そんなこんなで、僕たち若い世代にとって、若い世代の投票率向上は重要な課題なはずなのですが、なかなか解決しないのはなんでなんでしょうかねえ...。個人的には、今回の都知事選で、家入さんが登場したことが良い刺激材料となってくれればいいのですが。